2020/05/02
「共感・肯定」を“本当の意味で”できるようになるためには、「気持ちの持ち方をガラッと変える」ことが必要であり、これは「小手先のテクニック」では実現できません。かといって、日常の忙しさや親へのモヤモヤを抱えたままでは、「気持ちの持ち方」などなかなか変えられないのも現実です。そこで、あえて“システム”として取り組むための全体像(フレームワーク)を用意し、心の準備をしてから親に向き合うようにすると、自然に「本当の共感・肯定」へ近づきやすくなります。
以下では、一例として「システマチックに親へ共感・肯定を向けられるようになる」ための流れを7つのステップにまとめてみました。もちろん、これはあくまで一例ですので、ご自身のやりやすい順番ややり方にアレンジしてかまいません。
1. 親の“いま”を客観的に把握する(観察と理解)
まずは「親が昔と違う振る舞いをしているのは、老化による機能低下や生活環境の変化によるものだ」という事実を、頭でしっかり整理します。
加齢による物理的・心理的な変化(物忘れ、頑固さ、感情の起伏の増大など)
社会的な変化(仕事を辞めて居場所が変わった、友人を失った など)
身体的な不調(病気・痛み・睡眠障害など)
これらが複合的に親の振る舞いを変えている可能性があります。「自分に意地悪しているわけではない」という認識をまず固めましょう。
2. 自分の反応パターンを把握する(自己理解)
親の言動にイライラしたり腹が立ったりするとき、自分はどういう思考・感情の流れを辿っているのかを把握します。
「親のこの言動が始まるとすぐにカッとなる」
「昔からこういう言われ方が嫌だった」
「“無理に納得したフリ”をするパターンがある」
といった“自分のクセ”を自覚しておくと、「あ、きたきた…」と心の中で気づきやすくなります。気づくことが第一歩です。
3. 親の言動を“再解釈”する枠組みを用意する
「親のその言動は、今の親ができる“精一杯のSOSサイン”かもしれない」と考える枠組みを意識的に持つようにします。
例:
「耳が遠くなっているから、思わず大きな声になってしまうのかも」
「なぜか皮肉っぽい言い方になるのは、不安や焦りの表れかも」
このように、“親の言動を別の角度から眺め直す”準備をあらかじめしておくと、カッとなったときでも頭のどこかに「もうひとつの解釈」が浮かび、イライラが軽減されやすくなります。
4. いったん受け止める“言葉の型”を用意する
共感や肯定を“自然に”できるようになるためには、まず相手の言葉を受け止めるフレーズがあると便利です。テクニックではなく「自分が自然に使える受け止め方」をあらかじめ考えておきます。
「そっか、そう思うんだね」
「そうだったんだね、わかったよ」
「お母さんにとっては○○なんだね」
大事なのは“相手がどんな気持ちで言っているか”に焦点を当てることです。「たしかにそう思う」「そうかもしれない」と自然に湧いたときは、そのまま言葉にのせて伝えます。
5. 「昔の親」と「今の親」が同一人物だと改めて認識する
共感・肯定がどうしてもできないときは、「今の親は昔の優しかった親とは別人だ!」と心のどこかで思っていることが多いものです。
しかし実際は「昔の優しかった親」と「今の親」は同じ存在。
ただ年を取り、認知機能や身体機能が衰え、自尊心のバランスも崩れ、その結果としてイライラやネガティブ発言が増えているだけ。
「昔の親」と「今の親」をしっかりと結びつけてあげると、「あの優しかった親が、いまこんなにもやりにくそうにしているんだ」と心から思えて、自然と優しさが出てきます。
6. “共感・肯定”ができたあとの自分の変化を記録する(振り返り)
「少し素直に受け止められた」「わずかでもイライラせずにいられた」など、自分に起きた変化をその日のうちに振り返るクセをつけると効果的です。
スマホのメモや日記などに、短い言葉でもOK
「今日はいつもより落ち着いて返せた」
「母が意外と機嫌よくなってくれた」
どんな小さな一歩でも「できた」と振り返ることで、“共感・肯定”が「やらされ感」ではなく「自分にとって嬉しいことなんだ」と脳が再認識していきます。
7. 継続するための“心の余白”づくりをする
最後は、あなた自身が疲れ果ててしまわないよう、日常的に「自分の心の余白」を作るための習慣を整えます。
物理的な休息:睡眠をしっかりとる、ひとりになれる時間を確保する
心のリセット:散歩や深呼吸など、自分がほっとできるルーティンを1日1回以上は行う
誰かに話す:同世代の友人やきょうだいなど、気軽に悩みを共有できる相手を見つける
親への“本当の共感・肯定”は、あなた自身が疲弊しきった状態では難しいからです。自分を満たす習慣を日々取り入れることが「システマチックに共感・肯定する」ための土台になります。
ステップ1~3で「親がどうしてそういう言動になるのか」「自分はなぜイライラするのか」を理解し、“再解釈”の枠組みを用意する。
ステップ4~5で、実際のコミュニケーションの中で「受け止める言葉」を使いつつ、「昔の親と今の親は同一人物」という視点で寄り添う。
ステップ6~7で、「少しでもできたこと」を振り返り、自分の心の余白をつくる習慣を整える。
このように、あらかじめ「段階」を踏む流れを自分のなかに作っておけば、「本当の意味での共感・肯定」を生み出しやすくなります。これは単なる“テクニック”ではなく、「親との向き合い方の土台を変えるためのシステム」です。
「親が機能低下で変わったわけではない。本質的には昔と同じ親なのだ」という大前提をしっかりと心に据え、このステップを繰り返していくうちに、無理なく自然に「そうだよね」「うん、わかるよ」と言える瞬間が増えていくはずです。
そうして“共感・肯定”が当たり前になる頃には、あなた自身が以前よりもラクな気持ちで親と接し、結果として「親も機嫌がいい」という好循環が生まれやすくなることでしょう。ぜひ、ご自身に合うやり方で試してみてください。