2020/05/02
昨年、理学療法士さんに高齢者のリハビリに関するインタビューを行なった。
実のある話だったのだが、QOLの考え方のところで気になるところがあった。
当該理学療法士さんのお話
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1,QOLは当人が決める生活満足度の指標である。
2,歩きにくくなって買い物に行けないことはQOLの低下と言えるが、杖や押し車を使って買い物に行けるのならそれはQOLは低下したとは言えない
3,立って家事をするのがしんどいなら、座ってやればそれはQOLが低下したとは言えない。
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この理学療法士さんは、「買い物をする」という行為、「家事をする」という行為があればQOLは低下しないと言っている。
ここだけを見れば正しいように感じるが、肝心なところが抜け落ちているという意味でかなり良くない。
肝心なところとは、QOLの向上・低下の捉え方だ。
QOLの物差しとして、最も広く認知されているのは、SF-36という指標である。
SF-36がどのようなものかは本題ではないので、下記のウェブページでざっと見てみてほしい。
SF-36v2日本語版 – SF-36 | Qualitest株式会社
http://www.qualitest.jp/qol/sf36.html
QOLを測るうえで8個の評価項目があるのだが、重要なのは、この8個の評価項目は互いに絡み合うものだし、何より、あくまで「高齢者本人がどう思うか?」という主観に依るところが大きい。
そのため、QOLが高いのか、低いのか、普通なのかなどの度合いも、何が本人にとってポジティブに働くか、何がネガティブに働くかも、スパッとデジタルに表すことは極めて難しい。
(それでもSF-36は今のところ極めて優れた物差しであるのは間違いない)
たとえば、「日常役割機能(身体)」の評価では、
過去1ヵ月間に仕事やふだんの活動をした時に身体的な理由で問題があった
のでQOLは低下しているという判断になるが、ここに、
心配して、息子が頻繁に家に帰ってくるようになった
ことが加わり、「とっても嬉しい!」となれば、「心の健康」の評価では、QOLが向上する。
全体としては、少しQOLが向上したかもしれないし、低下したかもしれない。もしかしたら、ウキウキルンルン♪で案外跳ね上がったかもしれない。
QOLの向上・低下の唯一の指標は、いつも高齢者の心の中にあるのである。
最初に触れた理学療法士さんの見解では、「買い物をする」という行為、「家事をする」という行為があればQOLは低下しない、としているが、そこを断定しているのが誤りなのだ。
「QOLは当人が決める生活満足度の指標である」って自分で言ってるのになあ。
正しくは、
買い物ができる・できない、家事ができる・できないを含め、その高齢者がどのような状況になることがQOLの低下を防ぐのか、向上を助けるのかを精査する必要がある。
である。
詰まるところ、いいか悪いかを当人以外の人が軽々に判断せず、高齢者自身に聞こうね、そのうえでQOLの低下防止策・向上策を考えようね、ということだ。
(自戒を込めて)当社を含め高い専門性を有した組織・人はとかく自身が正しいという前提で動く。その専門性は頼れるものであり素晴らしいものなのだが、でもそれって主体が自分になってやしませんか?主体は高齢者であなたは客体なんじゃないですか?と思う。