2020/05/02
高齢の親を介護しているといろいろな気づきがあると思います。例えば「最近は炊事をしなくなった」「ぼんやりとしていることが増えた」など、何かしら気になることはありませんか?「炊事をしなくなったから代わりにしてあげる」「ぼんやりとしているから刺激を与えられればと思いテレビをいつも座っている場所の前に置いてみた」といったふうに、なんらかの工夫をしてきた方も多いと思います。効果があることもあれば、ないこともあるでしょうが、どのように考え対応をすることで、より効果のある支援ができるのか悩んだ経験のある方も多いはず。
今回は、より効果的な支援ができるようになるための考え方について、介護職としての視点を交えながらお伝えしていこうと思います。
お話を進める前に、みなさんがイメージしやすいように架空の人物とその方の様子について、例を用意してみました。
例 Aさん(80歳前半)・女性
・炊事や洗濯などの家事を最近はあまりしなくなった。
・変形性膝関節症を患っている。
・最近は階段の上り下りや歩行が難しくなってきた。
・尿漏れが目立つようになった。
・1日中、決まった場所に座り何をするわけでもなくぼんやりと過ごしている。
・出不精になった。(もともとは外に出かけることが好きだった)
・リハビリ特化型デイサービスに通い、筋トレやエアロバイクなどに取り組んでいるが本人は乗り気ではない。
・記憶力ははっきりしており昔のことから最近のことまでしっかりと覚えている。
こういった様子の方に、介護職はどのように考えて支援をしていくのでしょうか。結論を言ってしまうと「ひとつの情報だけで支援の内容を決めずに、たくさんの情報をつなげてまとめた後に支援のやり方を決める」という考え方をします。
わかりやすいようにAさんの例をもとに考えてみます。
「炊事や洗濯などの家事を最近はあまりしなくなった」
「変形性膝関節症を患っている」
「最近は階段の上り下りや歩行が難しくなってきた」
「出不精になった」
これらの情報は、実は関連性がとても高いんです。情報を1つ1つの個別のものとしてではなく、組み合わせて見てみましょう。
「変形性膝関節症の症状が悪くなり膝の痛みが強いので、歩行が難しくなってきた」
「膝の痛みが強くなり移動することがおっくうになってきたことから、家事をあまりしなくなった」
「歩くと膝が痛むので、出歩かなくなった」
情報を組み合わせてまとめてみると、このように考えることができます。そこで介護職は、医師に膝の痛みが増しており生活に悪影響を及ぼしていることを踏まえて報告を行い、医療的なケアに結び付けることや、移動の際の痛みを緩和させるために室内で使える歩行器や屋外で使えるシルバーカーを用意するといった支援のやり方を決めていきます。
介護職の初心者は1つを見て支援のやり方を考えてしまいがちになり、情報のつながりを意識することができません。つなげることができないと支援が必要な状態の本当の理由に気づけず、結果として効果があまりない支援をすることになってしまいがちです。介護職のベテランでもサービスを利用している高齢者が転倒してしまうような大きな事態が起きると焦ってしまい「情報をひとつらなりにして考える」ことができなくなり効果的な支援ができなくなることが往々にあります。
Aさんの例で「情報をひとつらなりにして考える」ことができないと、下記のような勘違いが起きてしまいます。
「尿漏れが目立つようになった」
→尿失禁をしてしまうようになったのでオムツを使おう
「1日中、決まった場所で座り、何をするわけでもなくぼんやりと過ごしている」
→認知症の症状があらわれはじめたので認知症外来のある病院に連れて行こう
「リハビリ特化型デイサービスに通い、筋トレやエアロバイクなどに取り組んでいるが本人は乗り気ではない」
→リハビリに取り組まないのは高齢になり意欲の低下が起きているからだ
こういった可能性はあるのかもしれませんが、たいていの場合は、1つだけ(単独)の気づきや状態から判断して支援の方法を決めると、うまくいかないことが多く、時には見当違いな支援をすることになってしまいます。
もう一度、情報をひとつらなりにする考え方で、先ほどの例を考えなおしてみます。
「尿漏れが目立つようになったのは、膝が痛く立ち上がりや移動が不自由になり、トイレに間に合わない」
「膝が痛く移動するのがおっくうになり、同じ場所で何をするでもなくぼんやりと過ごしている。記憶の能力は良い状態なので認知症になったとは考えにくい」
「リハビリに取り組んでも膝の痛みが解消されないので、やる気がでない」
状況を整理すると、このように考えてみるほうが自然で、より正解に近いと言えるでしょう。
今回お伝えしてきたのは、介護支援専門員や介護福祉士といった介護のプロと呼ばれる人たちが実際に高齢者の生活を支援する際に使う考え方の1つです。みなさんも高齢になった親の生活を支える方法を考える際には、1つの物事や情報から支援の方法を考えるのではなく「情報をひとつらなりにして考える」という手段を試してから、支援の方法を考えてみてください。
実際の場合には、Aさんの例で挙げた以上に、いろいろな状況が絡み合ってきます。特に高齢者の場合は複数の疾患やさまざまな心身の障害や能力の低下があるので「情報をひとつらなりにして考える」ことが複雑になりやすいと言えます。けれども、「情報をひとつらなりにする」という考え方を身につけることで、親の望む生活、本当に必要で効果的な支援に近づくきっかけになると思いますので、ぜひ意識してみてください。