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認知症をポジティブに ~介護施設職員の体験談~

time 2020/10/20

認知症をポジティブに ~介護施設職員の体験談~

高齢になることで誰しもに起こりうるのが、認知機能の低下です。原因は、加齢によるものや脳血管障害の後遺症、アルツハイマー型の認知症などがあります。近年では、いろいろなメディアで認知機能の低下や認知症についての話題が取り上げられる機会が増え、詳しくご存知の方も多いのではないでしょうか。

そんな中で、介護の仕事に関わる筆者としては、少し心配な気持ちがあります。メディアが発する情報は深刻な内容のものも多いため、情報の受け取り手である高齢者本人やその周囲のご家族は、どうしても重く受け止めてしまいがちになってしまうのではなかろうか、と思うのです。

もちろん、認知機能の低下によって、高齢者とそのご家族の生活をおびやかす深刻な症状が起きることもあるのですが、必ずしもそれだけとは限りません。少し視点や考え方を変えることでポジティブに感じられる瞬間というものが必ずあります。

例えば、認知機能が低下した高齢者は、時に想像してもいないようなことをするので、周りにいる人が(良い意味で)驚くような行動、思わずクスリと笑ってしまうようなことがあったりするんです。

今回は、そんな認知機能の低下をポジティブに捉えられるエピソードをご紹介します。気構えず気軽に読み進めてみてください。

 
Ep.1 「あれがない!!」
アルツハイマー型の認知症を抱えながらも、一人暮らしを続けていた女性のお話です。
この方は、近辺に親族などの身寄りがなく、筆者の勤めていた事業所の介護サービスを受けながら生活をしていました。身の回りのことはある程度できるけれども、ついさっき行動したことはほぼ忘れてしまうといった症状があり、1時間前に食べた食事のメニューが思い出せないなんてことは日常茶飯事でした。

彼女が病院への受診を翌日に控えたある日のことです。介護職員として筆者が訪問し、病院へ持っていくものを一緒に用意していたところ、すぐにあることに気づきました。

医療保険証が見当たりません…!

いつもは、居間のテレビ台に置いてある貴重品入れに保管してあるはずですが、そこに入っていなかったのです。本人に聞いてみても覚えておらず、「いつもの場所にあるはずだけど。どこかに持っていった覚えはないです…」とのこと。同じ場所に保管していたはずの受診カードも見当たらないので、おそらく本人が受診の準備をして、どこか別の場所に置いてしまったのでしょう。彼女は「おかしいな」「泥棒にでも持っていかれたのかしら」と心配していましたが、銀行の通帳などはあるので泥棒ではないだろうと判断し、安心するよう声をかけました。

しかし、大変だったのはここからです。

机の引き出し、タンス、食器棚など、家の中をくまなく探しましたが目的のものは見つかりません。最後まで一緒に探してあげたいけれど、一職員としてはこの女性にだけ時間と人手を割くことができないというのがつらいところ。その時は一度帰ることにして、別の時間に他の職員が一緒に探すことにしました。暑い夏の日、汗をかきながらの必死の捜索でした。

さて、保険証は無事に見つかったのでしょうか。
後から別の職員から聞いた話によると、医療保険証と受診カードは無事に見つかったそうです。本当によかった!でも、あんなに探しても見つからなかったのに、いったいどこにあったのでしょう?

…なんと、寝室のベッドと壁の隙間に落ちていたとのことでした!

なぜそんなところにあったのかはわかりません。でももしかしたら、彼女自身が「明日は病院に行かなくちゃ」と強く思って、忘れないように大事に抱えて眠ったところ、寝ている間に落ちてしまった、とかかもしれませんね。それじゃあ普通に探しても見つかるわけないなと苦笑いしましたが、予期せぬ行動の理由を想像してみると、なんだか和んでしまいました。

ちなみに、ようやっと保険証を見つけた時、女性と職員は歓声をあげながら、手を合わせて大喜びしたそうです。その光景を思うと、筆者もその場に立ち会いたかったなあと思うのでした。

 
Ep.2 「お風呂はいいものですよ」
認知症を抱えた、とある男性のお話です。この方も一人暮らしされており、介護サービスを利用しながら生活を続けていました。

介護サービスの利用は、遠方に住む息子さんが男性の生活に不安を感じてスタートしました。当初、男性はとても嫌がり「そんなものに頼らなくても問題はない!」と職員を受け入れてくれませんでしたが、彼の生活は控えめに言っても上手くいっているとは言い難いものでした。食べ物は腐らせてしまう、尿漏れがあり室内は異臭がする、お風呂に入らないなど、挙げればきりがないくらい気になる点があったのです。

私たちは男性に煙たがれましたが、あきらめずにお家に通い続けました。その甲斐もあり、最初は玄関先であいさつ程度の会話をするのが限界だったのが、家の中に招き入れてくれて、世間話をするまでの関係を築けました。関係が良くなるにつれて介護サービスも受け入れてもらえるようになり、腐らせてしまった食べ物の廃棄や部屋の掃除などを嫌がられることがなくなりました。こうして進展すると嬉しいものです。

一方で、なかなかうまくいかなかったのがお風呂です。入浴だけは嫌がり、お風呂には入っていただけませんでした。想像ではありますが、男としてのプライドや恥ずかしさなど、自身の尊厳を保つため、彼なりに引いていた心の境界線だったのかもしれません。けれども、尊厳を保つためには清潔であることも大切です。

なんとかしたい、職員みんながそう思っていた頃です。

ある日、いつものように男性を訪問した際のことです。その日も変わらずお家の中に招いてくれたのですが、男性の後ろ姿、ズボンがぐっしょりと濡れていたのです。どう見ても尿漏れによって濡れているのがわかりました。

怒りはしないだろうか…。一瞬ためらいましたが、筆者は心を決めて男性に「Aさん!ズボンが大変なことになっています。これはお風呂に入らないとまずいですよ!!」と慌てた口調で入浴を勧めました。
慌てた様子や口調などは、「これはまずい!」というメッセージを伝えるための筆者なりの演技です。最初は渋っていましたが、最終的には介護サービスを利用開始以来、初めてお風呂に入ってくれました。

ここまでにかかった期間は、約1年です。「やっと入れた!」と感無量の気持ちに浸っていた筆者を笑わせてくれたのが、湯船に浸かった男性の一言です。見たこともない満足そうな表情で「やっぱりお風呂はいいなあ」と笑っていたのです。その表情を見ることができた、それがこの1年のご褒美のように感じたのでした。

 
 
認知機能の低下は、人それぞれにいろいろな形で現れます。今回ご紹介したように、大切なものの置き場所がわからなくなる、清潔に対して無頓着になる、というのも症状の一つです。

認知機能が低下してきた親をもつ方なら、程度の差はあれども、上記のエピソードと似たような経験があるのではないでしょうか。深刻に捉えがちな認知機能の低下・認知症ですが、あくまでそれは一面から見た話です。どこかにきっと「笑い」や「ほっとする瞬間」というポジティブな面があるものです。そのポジティブになれる瞬間にスポットをあてることこそ、介護を続けていくために大切なことなのではないかと思います。

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