2020/05/02
福祉用具を検討する際には「福祉用具」という枠にとらわれず、その方にとって何が本当に必要かを根本から考えることが大切だと思います。
たとえば、「歩く」という機能が低下している場合、つい杖や歩行器、車いすなど“歩行を補助する道具”をイメージしがちです。しかし、本人にとっては「本当に移動が必要な場面ってどんなときか」「移動する距離はどのくらいか」「乗り物(バスやタクシー)を使う頻度はどれくらいか」など、生活全体を俯瞰したうえで、移動手段や住環境そのものを見直すほうが合っている場合があります。
また、「座る」「寝る」「排泄する」「入浴する」といった日常生活動作(ADL)に対しても、本人の身体状況や暮らしのペース、介護する側の負担度合いなど、総合的に考えてみることで、より安全かつ快適に暮らせる環境を作り出せるでしょう。どうしても「ベッドならこういう機能のもの」「トイレならこの簡易ポータブルトイレ」など、一つひとつの福祉用具だけに目が向きがちですが、まずは“その方が日々の暮らしをどう送っているか”という視点からスタートすることが重要なのではないでしょうか。
さらに、「その人にとって何が必要か」を見極めるためには、小さな違和感や変化を見逃さないことが大事になります。たとえば「移動するとき、ちょっと足がもつれる場面が増えた」「背もたれに寄りかかっている時間が長くなった」「最近腰に手を当てている仕草が目立つ」といった日常の気づきをきっかけに、何か道具や環境の整備を見直す必要が出てきたのかもしれない、と考えてみるわけです。その際、福祉用具だけに限らず、家族の介助の仕方や部屋のレイアウト、そもそも生活導線の組み方そのものを含めて検討し、必要であれば専門家にも相談していくのが望ましいと思います。
結局は、「道具ありき」ではなく、あくまで「人」や「暮らし」が主役。福祉用具は、その人の生活をサポートする“あくまで手段”でしかありません。「何が必要か」という問いを出発点にして、必要に応じた福祉用具の導入や環境の工夫を行うことが、利用者の方にとっても介助するご家族にとっても、本当に役立つアプローチになるのではないでしょうか。
「歩行を補助する道具」を使う=QOLが向上する ではない
具体的な例を挙げますと、
「歩行を補助する道具」を使う=QOLが向上する、とは必ずしも言えません。なぜなら、歩行補助具を使うことが目的化してしまうと、「なぜ歩く必要があるのか」という本来の目的や、その方がどのように暮らしていきたいのかという視点を見失ってしまう恐れがあるからです。
「歩ける状態を維持すること」や「自力で移動できること」が、その方が望む生活や目標につながっている場合もあれば、必ずしもそうでない場合もあります。大切なのは、その人にとってどのような生活スタイルや活動がQOL(生活の質)を高めるのか、そのために何を整備し、どうアプローチすべきかを考えることです。
たとえば、歩き回らなくても、居室内の動線を最適化したり、必要な場所に手すりを設置したり、そもそも移動しなくても済むよう家事動線を工夫したりなど、福祉用具に限らない“暮らしの工夫”でQOLが向上するケースも多々あります。ですから、杖・歩行器・車いすといった「歩行補助具」を手にした瞬間に「これで万事解決」と考えるのではなく、あくまでその人の生活全体を見て、必要があれば道具を導入・調整する。それが最も大事な視点ではないでしょうか。