2020/05/02
1. 何度も同じ話を繰り返す理由
記憶の定着や感情の強さ
お話が「楽しかったこと」「つらかったこと」など、当人にとって感情的に大きな意味をもつエピソードだからこそ繰り返されることがあります。思い出を繰り返すことは、何度も心の整理をしたいという気持ちの表れかもしれません。
認知機能の変化
加齢や認知症の進行などにより、新しい情報の記憶はうまく定着しにくい一方、昔のことは印象深く残っている場合があります。結果として、昔の思い出が繰り返し語られることがあるのです。
安心感や自己肯定感を得たい
自身の経験を人に伝えて反応を得ることは、自分の存在意義や自己肯定感を確かめる行為でもあります。聴いてもらえることで「受け入れられている」という安心感が生まれます。
2. 本人の大切な記憶を否定しない意義
尊厳を守る
高齢者が過去の経験を語ることは、その人が生きてきた人生の証そのものです。その話を否定したり無視したりすれば、当人の尊厳を傷つけることにつながります。
心理的安定を促す
「大切な思い出」とは、本来その人の精神的な土台となっているものです。繰り返し語ることが許され、また受け止めてもらえることで、本人の気持ちが落ち着き、心理的に安定する効果が期待されます。
3. 家族や介護者の負担感と向き合うために
共感と受容の姿勢を基本とする
何度も同じ内容であっても、まずは「その話をしたいのだな」「大切なことなのだな」と受け止める姿勢をもつことで、本人の気持ちを尊重できます。
適度な距離感と仕組みづくり
ご家族や同居されている方にとっては、毎日のように繰り返される話をその都度聞いてあげるのは非常に大変です。ときには「少し聞き流せるシステム」をつくることも必要です。たとえば、日記や録音など、その方の思い出をまとめておけるような方法を使ってみるのも一つの手段です。
プロフェッショナルへの依頼
介護サービスや訪問看護、デイサービスなどを活用して、家族以外の人が話を聞く機会を設けることで、ご家族の負担を軽減できます。とくに専門職は、「話を聴く」スキルを身につけており、利用者の方の心理的サポートにも長けています。
4. ケアの専門職としての意識と役割
“第三者”であることの強み
介護従事者や専門職は、家族とはまた違った距離感とプロとしての客観的視点をもって接することができます。そのため、同じ話を繰り返し聞くことにも比較的余裕をもって対応できます。
家族との連携による効果
プロフェッショナルがうまく介入することで、ご家族が本人にイライラする気持ちを和らげたり、「一緒にサポートしてもらえる」という安心感を得たりできます。結果として家庭内のストレスやトラブルを減らすことにもつながります。
最終的な目的は本人の生活の質向上
高齢者の方自身が「自分は大切にされている」「自分の話を聞いてもらえる」と実感することは、生活の質や心理的な健康に大きく影響を与えます。話を受け止める行為は、単にコミュニケーションを成立させるだけでなく、本人の生きがいづくりにも寄与します。
高齢者が同じ話を繰り返すことは、心理的・身体的な背景がある自然な行為であり、周囲はそれを受け止めることで本人の尊厳や安心感を支えることができます。ただし、家族や周囲が感情的に負担を感じるのも事実です。そこで、専門職の力を借りたり、共感と受容の姿勢を保ちつつ適度な距離感を持ったりすることで、双方が無理なく向き合える環境づくりが大切です。
大切な思い出を語ることは、その方にとって人生を肯定する行為ともいえます。ご家族やケアに関わる人々が「何度聞いても、あなたの話は大切だ」という姿勢で接することにより、高齢者の方の自己肯定感が高まり、よりよい生活が送れるようになります。